私的解説2「しと、したた」「漏出」「Eureka」「石炭回想録」

今回は運炭施設の4作品です。
もともとは北炭系の炭鉱から運ばれてきた石炭を砕くための施設で、各ベルトに降ろされた石炭が集まってくるからか、「運炭」と呼ばれていました。

発電所の閉鎖から20年となる3年前に「夕張清水沢アートプロジェクト」を開催するまで、「運炭」は使用されることなく、閉鎖後のそのままの状態で残っていました。
私たちも最初に見たときは、驚いたものです。

運炭には今回4作品があります。
そのすべてが、この空間に存在している「時間」をテーマにしていると感じます。

長谷川 涼一「漏出」

sawade_rousyutsu

Photo by Sawade

この部屋は「運炭詰所」といい、運炭施設で働いていた下請け企業の作業員の休憩所だったそうです。
そこで働いていたのは、女性。
その確かな証拠に、口紅がうっすらと残っているタバコの吸い殻や「聖子&正輝〜〜」と題字の踊る女性週刊誌が残されていました。
平成3年で止まったままの空間。
しかし、そこには確かに働いていた人たちの息遣いが、彼女たちが触れたであろうそこかしこから溢れでている。
そんな見えない記憶を、キラキラと輝くアルミホイルで表現しました。
そういえばアルミホイルは、彼女たちが家に帰って台所で使うものとも言えますね。

上遠野事務所清水沢支店「Eureka」

sawade_eureka

Photo by Sawade

一見去年も目にしたユニット名?かと思いますが、彼女たちは昨年度の上遠野ゼミ生です。
下見の時は「後輩たち頑張って〜」くらいの気持ちで同行していたようですが、ふつふつと湧き上がるものがあったのでしょう。社会人メンバーたちが、休みの日や夜にかわるがわるやってきて制作を行いました。
使用している空間は「運炭係員詰所」。管理をする職員が詰めていた場所です。
この部屋は傷みが酷く、前回のアートプロジェクトでは使用しなかった部屋ですが、あえて彼女たちは挑戦しました。

この作品もキラキラ光るものが、隙間という隙間で輝いています。
これはCDやDVDなどの記録媒体。中にはちゃんと、清水沢の写真や映像が収められているものです。
言われないと、絶対にわからないですよね。
なんだかんだと言われる夕張だけど、彼女たちが接した地域の方はみな明るく、誇りに満ちていた。
この地域は、人は、輝いている。そんな発見「Eureka=見つけた」を表しているかのようです。

山﨑 美咲「しと、したた」

2014-09-13 14.55.10
この作品を最初に見た時、「そこに注目したのかあ!」と感心しました。
天井からしたたり落ちる、賑やかな彩り。
運炭施設をよく見たら、鍾乳石のような白い石筍?が天井から垂れ下がっているのを発見します。
これはこのあとの石炭回想録にもつながりますが、運炭施設の建物は、発電所の燃焼灰で作られたブロックでできているそうです。
なので石灰分が長い長い時間をかけて溶け出てきたのでしょう。
誰にも気付かれずに流れていた時間。その証拠に石筍がある。
だけど、この空間には、確かに石炭があり、人々の労働があった。
その人々の営みを称えるかのごとく、白い石筍にカラフルな彩りを与えているのでしょう。

名前入りのロッカーがあるこの部屋は、床が抜けそうで危ないです。どうかそっと部屋の外側から見るにとどめてください。

平中 麻美子「石炭回想録」

2014-10-04 15.34.59
今回のアートプロジェクトのロゴをはじめ、プロジェクトのさまざまなビジュアルを描いている平中さん。
絵を描くのが本当に好きなんだなあと思っていたのですが、もはや好きとかではなく彼女の日常の中に絵があるのです。
例えば記録。普通の人はメモをとる時に文字とせいぜい簡単な図形を書く程度だと思うのですが、
彼女の場合は、最初から絵を描くことでメモを取ってしまいます。
このような手法を「ビジュアルレコーディング」というそうです。

発電所で働いていた方や来場者の方のお話を元に「描き起こされた」作品が、「石炭回想録」。
発電所の燃焼灰が何に使われていたとか、どんなふうに売っていたとか、経験した人でないとわからないお話がユーモアいっぱいに描かれています。
このブログをご覧になっている方はすぐピンと来ると思いますが、お話の9割は宮前町の元電力マン、菊地さんのお話です(笑)
菊地さんの話は、だいぶオブラートに包んで言うと、「いかに業務を効率化するか」という話が多いのですが、それでも「電気だけはちゃんと作っていた」といいます。
自分たちが電気を作らないと、炭鉱は全て止まってしまう。
その言葉は、この巨大な遺産の意義をすべて言い表しているのではないでしょうか。

===
作品紹介、プロが撮ったまともな写真はこちらをどうぞ
参加アーティスト・作品
(プロジェクトディレクター・佐藤真奈美)