山岸耕輔活動日誌|10日目

滞在10日目

 3月10日月曜日。
午前中は宮前浴場の掃除をして、浴場の中を撮影させてもらいました。
GoProを頭に付け、咲子さんに教えてもらった手順で浴室の清掃をする手順を記録します。
また、シホロカベツ川の河原石を3Dペンで型取ったオブジェをロッカーや番台などに配置して撮影しました。
浴場で展示をするにあたって、どこに映像機器を配置するべきか、コンセントの位置、天井の強度、柱や鏡などの使えそうな要素、導線の確認、安全対策など、ぐるぐる回ってイメージを膨らませました。

 真奈美さんと合流し、午後からのパフォーマンスに向けて、ルートの最終確認をしました。
パフォーマンスは鑑賞者を入れずに、真奈美さんに映像の記録をお願いしました。
二人で一緒に確認する中で新たに発見した良さそうな場所をコースに追加し、カメラの構図や距離感なども決めていきました。
順調に思えた下見でしたが、跨線橋にさしかかるあたりで一本の電話が真奈美さんに入りました。
市民課からの連絡で、内容は「宮前浴場の煙突の傾きが進んでおり、消防の検査が入ります。結果次第では臨時休業にします。」といったものでした。
そんなこともあるのか、と思いながらも、切り替えてパフォーマンスの準備をする他ありませんでした。

14時になりいよいよパフォーマンスの本番が始まります。
浴場の入り口正面にアクリル台を置き、浴室へお湯を汲みにいきます。
女湯の入り口から入り、志津子さんのお母さんからお借りしたオレンジ色の風呂桶で浴槽から掬い、慎重に外まで運びます。
アクリルの前まで着き、ゆっくりと中に注ぎます。
次は男湯から入る予定でしたが、鍵をかけたままだったので、女湯側から番台の前を通って男湯に行きました。
同様にお湯を運びます。

ここであることに気がつきました。
そう、お湯を注ぎ過ぎました。
以前、富山でパフォーマンスしたときは、一升瓶分の御神酒を容器に入れて水平に運んだのですが、水かさがその時の倍の高さになってしまいました。
既にカメラも回してもらっていたので、平静を装い気合いで持ち上げて歩き始めました。
長時間になることを考慮して、アクリルは腰あたりに持ち、両手で支えます。
綱渡りで棒を持つサーカス員のような姿勢です。

まず向かったのはコミュニティゲートがある旧炭鉱住宅のエリアです。
最終地点の橋とは反対方向でしたが、どうしても水平と同じ画角に収めたかったので追加したルートです。
この日は快晴の無風という好条件で、雪を踏み鳴らす足音だけが聞こえます。
旧炭鉱住宅の間を進んでいくと、坂の下にある清陵地区の街並みが見えます。
ここで一度水平のポーズ(アクリルを目線の高さまで上げる)を取り、折り返して宮前浴場の裏の道へと進みます。

そしてやはり、アクリルが重く、腕が疲れてしまったので、休憩を挟みます。
休憩といってもアクリルを地面に置くことはできないので、お湯をこぼさないように膝をゆっくり曲げ、太ももの上にアクリルを乗せて耐えます。
その間に手を振ったり伸ばしたりして、痺れや疲労を軽減させます。
無風とはいえ指先からくる冷えには堪えました。

先を進むと市営改良住宅が見えてきます。
赤い屋根が特徴の旧炭鉱住宅と、青を基調とした市営改良住宅は色彩も対照的です。
本間ストアーの前を横切り、ゆっくりと進んで行きます。
左手にParlor HABIN(パチンコ屋)が見えたところで右折し、アクリルの持ち方を少しずつ変えながら進み、清水沢郵便局の前を通過したあたりで、これまで持つのが大変だったアクリルが急にそこまで辛くなくなる瞬間がありました。
水平に歩く中でお湯が少しずつ溢れていき、このタイミングで自分の身体とちょうど釣り合いが取れる重さになったのでした。
持ち方も始めた頃より改善され、手だけで持つのではなく、腹部の下あたりに置くイメージを作ることで安定感が高まりました。

そのまま真っ直ぐ進むと、ようやく一つ目の信号が見えました。信号が青に変わるタイミングを伺い、丁寧かつ速やかに横断することに成功しました。
前方で立ち尽くしていたおばあさんが目の前で横切り、商店街の方から反対の歩道を渡ってバス停前で小休憩を取りました。
小学生くらいの子供達の声が聞こえてきます。もう下校の時刻でしょうか。

ようやく跨線橋まで辿り着きました。
ここを超えるとゴールは目前です。
すっかり冷たくなった浴場のお湯を、また目線の高さまで持ち上げて、橋の階段を登ります。
安藤山の方へ沈んでいく太陽がアクリルをキラキラと反射させます。
跨線橋の真ん中で再び水平のポーズを取り、階段を降りると太陽は山に隠れてしまい、時間の経過を感じました。

目的地である西川橋に到着し、橋の下を見るとシホロカベツ川が流れているのがわかります。
川の真上についたところでアクリルを左右の向きから前後の向きに持ちかえ、息を整え、浴場のお湯を橋の上から川へと投げ入れました。

こうして、2時間に及ぶ(1時間の想定だった)パフォーマンスを無事に終えることができました。

(文・写真/山岸耕輔)