山岸耕輔活動日誌|4〜6日目
滞在4日目
いよいよ宮前浴場の閉鎖撤回を求める署名を市に提出する日がやってきました。
真奈美さんはこの日のために私のアテンドをする傍で署名の回収を各所で行っていました。
結果的に集まった署名は、直筆署名1,326筆とオンライン署名3,206筆の合計4,532筆となりました。
中には海外から郵送されて届いたものや、夕張市に対する意見書なども多数寄せられました。
市役所へは真奈美さんと菊地さん、咲子さん、志津子さん、そして撮影係として私も同行することに。
まさか挨拶をした翌日に署名活動で訪れるとは思っていなかった夕張市役所へ。
部屋に案内されると既に新聞記者の方々がきていました。
しばらくすると市長が入ってきて、挨拶をしたのち、署名を直接渡しました。
市長からは、公衆衛生施設としての役割や地下タンクの期限の観点から、現時点での方針は変わらないとしながらも、署名、意見書を確認し、今後のあり方については検討したいという発言がありました。
このことを受け、市議会で改めて議論されることとなりました。
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この日は宮前浴場が休みということから清陵浴場へ。
清陵浴場はコミュニティゲートから坂をくだって20~30分歩いた先にある銭湯です。
宮前浴場が閉鎖された場合、旧炭鉱住宅の住人はここまで毎日通わなければいけません。
館内は宮前浴場とは違い、休憩スペースとなる広い空間があり(キャスターがついた観葉植物などが置いてある)、つき当たりに番台と男女の入り口があります。入浴券は宮前浴場と共通です。
浴室は広めで瓢箪型の浴槽が特徴的で、湯口のデザインは石炭を模したものになっています。
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夕張に来てから4日間で既に沢山の出来事がありました。
本や動画、展示では追えないような膨大な情報が身体に流れてくる感覚。
滞在することで見えてきたもの・こと。
これらの出来事をかたちにするには現状のプランを刷新していく必要が出てきました。
地域の環境や状況に受け流されつつもできることを探求する。
制作ささる作品を目指して。
滞在5日目
この日は一人でシホロカベツ川に行って見ることにしました。
前日の跡地案内の道中でちょうど川の側まで降りられそうな場所を発見していたので、そこまで向かいました。
近いとはいっても正規ルートがあるわけではなく、道の傍から積雪の上を進めば何とか到達できるのではないかという推測の段階でした。
準備していたGoProを頭に装着し、道路の傍から雪をよじ登るようにして向かいます。
前方から出現した大きい雄鹿と目が合い、すぐさまカメラを向けましたが、警戒されて奥へと逃げられてしまいました。
道なき道を一歩一歩踏み固めながら進んでいくと、ようやく川の側まで辿り着くことができました。
シホロカベツ川は川幅が狭く、流れが急で透き通るような綺麗な水でした。
もっと近くに寄って撮影しようとしたそのときに、雪が崩れて川の中へと落ちてしまいました。
幸い浅い場所だったので川の水が長靴に侵入することもなく無事でした。
良い機会だと思ってそのまま撮影を続け、サンプルにいくつか河原石も拾いました。

成果発表に向けてフライヤーを作成する必要が出てきたので、メインビジュアルとなる写真を宮前浴場の前で撮影することになりました。
今回の発表では、長い水平器を模したアクリルの容器に宮前浴場のお湯を入れ、水平に移動するパフォーマンスをメインですることにしました。
撮影時間がちょうどお母さんたちが集まる時間と重なっていたので、練習する私のパフォーマンスを不思議そうに見つめていました。
お母さんたちにも出演してもらおうと交渉も考えましたが、声をかける前にゾロゾロと中に入って行ってしまいました。
滞在6日目
清水沢プロジェクトのこれまでの活動が評価され、公益財団法人空知しんきん産業文化振興基金が主催する「産業技術賞・文化賞・ふるさとづくり大賞」の「ふるさとづくり大賞」に選ばれました。
この贈呈式が岩見沢であるとのことで、真奈美さんに声をかけていただき、私も参列することに。
岩見沢は清水沢から車で1時間ほどのところにある町で、かつては石炭を運ぶために室蘭と函館をつなぐ重要な町でもありました。岩見沢駅前のメタセコイアが象徴的です。
式の前に駅の側にある「天狗まんじゅう」というお店によりました。
真奈美さんイチオシのお店で、ここで食べた「肉まんじゅう」が肉まんともまんじゅうとも違った味わいで絶品でした。
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会場の駐車場に車を停めると、ちょうど別の車で到着したしんちゃんさんと合流しました。
まさかレジデンス中にこうしたフォーマルな会場に行くことは想定していなかったので、綺麗な服装の二人に対して、いつも着ているジャンパーで会場に向かいました。
会場には北海道の南空知地域における産業と文化の発展に貢献した個人や団体の方々が集められ、1組ずつ表彰されていきます。
ふるさとづくり部門を代表して真奈美さんがスピーチを行いました。
スピーチでは、受賞についての感謝と地域に対する思いを語っていました。
炭鉱遺産の保存・活用から、宮前浴場の閉鎖などの課題があること。そして、「文化」の重要性を訴えかけました。
また、レジデンスについても触れ、私の紹介もしていただきました。
「文化」とは何か。地域における「価値」とは何か。といった問いを改めて考えさせられる素晴らしいスピーチでした。

お土産にいただいた豪華なお弁当と共に会場を後にし、しんちゃんさんの車に同乗させてもらい、清水沢へ帰ることに。
道中はジンギスカンのお勧めのお店やレモンサワーのサーバーが席に付いている釧路の居酒屋など、色々とご飯情報を教えてもらいました。
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夜になって日課となった散策に出かけました。
北海道に着いてから1日平均1万歩以上歩いており、その大半は散策によるものでした。
清水沢の街並みをぐるぐる回って、パフォーマンスの為のルート探しや、気になった対象を撮影したりなどしていました。
コミュニティゲートの周りは僅かに街灯がありますが、さらに奥へ進むと真っ暗な道になります。
建物が見えても灯がないことから誰も住んでいないことがわかります。
雪に残った動物の足跡を追うようにさらに進むと大通りに出て、左に曲がると夕張メロンの看板を掲げたお店が見えます。
今はシーズンではないためか、日中もしまっていました。
その後、セイコーマートが右手に見えたあたりでまた左折し、集合住宅の間を進むと宮前浴場が見えてきて、その先をさらに左に曲がるとコミュニティゲートに戻ってきます。
(文・写真/山岸耕輔)